スタニスラフスキー

 コ ンスタンチン・セルゲーヴィッチ・スタニスラフスキー
      最後の肖像 (1938年没)
                 












001

大前提

 
 我々の大前提となっている考え方は、非常にシンプルです。それは、 内面的
 刺激によって正当化されない、すなわち
   心理に関わりない動きというものを認めない
                                           
と言うことです。

 例えば、テーブルから立ち上がってキッチンでコップ一杯の水を飲むとします。
 あなたならどう演じますか?
 ここで問題になるのは、何の目的で水を飲むかと言うことです。のどが渇いた
 ため? 薬を飲 むため? クッキーがのどにつかえた為 ?........毒薬をのむ為 ? あ
 なたは次に水を飲むという段取りが分かっています。

 舞台という虚構の世界で、あなたはどう振る舞いますか?
002  魔法の"if"  
 私たちがシステムの中で特に多用するのが、この"魔法のif"です。
 虚構の世界の中で 「もしも、こうした物全てが真実で有ったなら、どの様に振
 る舞い、どう立ち向かうだろうか」、この創造的瞬間から全てが始まると考えて
 います。

 また、もっと身近な使い方として「もし自分だったら.....」、相手の芝居を受け
 て、芝 居の展開の中で、予定外の状況の中で(例えば、びんの蓋を開けようと
 したら、リハの時にきつく閉めてしまって開きづらくなってしまった )、自分から
 出発する事で、役と自分の距離を縮める或いは、役と自分との生き方の違い
 を認識する事で、芝居に取り込める多くの事柄が見えてくるものと考えていま
 す。

 このページでお話する事は何も舞台に限った事では有りません。当然、映像
 演技にも言える事です。
 最近よく番組改編期になると 「NG 特集」を放映していますが、若手のタレント
 さん ( あえて こう呼びま した) が自分で芝居を止めてしまっていますが、私た
 ちは「芝居を止めるな ! とちりをとちりとするな !」 とたたき込まれてきまし
 た。 「集中と緊張」が出来ていないとか、「貫通行動」が出来ていないとか言わ
 れますが、この "魔法のif" の存在すら知らないのだろうとも考えられます。
 もちろん経験的に無意識のうちに使っておられる方もいらっしゃる筈ですが、多
 くがきちんと整理されていないのだろうと感じられます。

 舞台という虚構の世界で、あなたはどれだけ役者の引き出しを用意して有り
  ますか?

003   ある日の
 稽古風景
稽古1

 この日は約4ページの台本を渡さ
 れて、20分でほぼ暗記。
 簡単な段取りを合わせて、いざ立ちへ。
  









 特にこの日はお互いの対峙関係
 の位置で、内面に起こる微妙な
 "生の"変化を感じると言うのが、
 隠し課題





 さて、その結果は....?

 次回からは、メルマガで先行している
 スタンプ芝 居と、エチュードの実際をシ
 リーズで。

稽古2
稽古4
004  紋切り
 芝居

 今回はシステムが最も嫌っている一つの紋切り型・スタンプ芝居に付 いて少々。

 ちょっと想像してみて下さい。あなたは今、初対面の演出家の前に立って居ます。
 演出家は一寸意地悪そうな目をしながらこう言います。 「何でも良いから老人に
 なって舞台を横切ってみて」と。
 新人は一寸考えてから、腰を折り曲げ、手には杖を持ったような無対象芝居を始
 めました。 最近ではあまり見られなくはなったものの、これに近い事は日常的に
 行われて居ます。
 困ったことに、ドラマでは当たり前の様に。小さい頃からこういった芝居を見ている
 内に、何の違和感も無く染みつき、自分が演じる側になっても気づきもしないことが
 往々にして有ります。
 外面的演技や大ざっぱな感情表現はこれを認めてはいけないのです。

 服を着て何処かへ出かける。その時の服の着方は?
デートに出かける、 仕事に出
 かける、身内が倒れて病院へ。
 服を着るという外面的行動はどれも同じです、しかし、同じ身体的行動でも、前提条
 件は全く違う。加えて、脈拍が違う、すると当然呼吸が変わり行動・仕草のテンポが
 変わる。
 
 毒蛇を踏んでしまったった演技をするとき、あなたならどうしますか?
 蛇を見て、まず毒蛇かどうか考え次の行動を考える、そしてその決定に基づいて行
 動する。車の運転と同じ、" 認知 "" 判断 "" 行動 "と言う一連の動作を実行する。
 しかし、自己保存の本能は、これらを一瞬にして判断し行動に導いている筈です。

 役を掘り下げる議論は必要だろうし、そこから導き出された答えも正しいでしょう。
 しかし、役者を本当に燃え立たせる事は出来ない。分別くさく、冷淡に役に近づく事
 がいかに滑稽でばかげている事か。 生きた有機的行動に付いて理屈をこねる事と
 すりかえて、確信と冷ややかな理性的行動をすり替えてはならないのです。
 
 あなたの引き出しは増えましたか?
 その引き出しはいつもいっぱいになっていますか?
   
005  エチュード
 の実際

 第1回

 今回から数回に分けて、お問い合わせの多いエチュードに付いて少 々。

 一寸、想像してみて下さい。 演出家が、あるエチュードを提示しました。
  
 とあるバーのカウンター、一人の女性が板付きでスタートします。少しあって男性が登
 場します。無言の中でのやりとりが交わされ、二人は腕を組んで出て行く。
 
 エチュードに付いては、多くの劇団、ワークショップなどで日々行われては居るのです
 が、役者、演出ともどう扱っていけば良いのか、迷っておられる所も多いようです。
 そこで、エチュードが成立しない要因について、考えてみたいと思います。

 多くの場合、何をすべきかと言うことを、有機的に捉えられて居ないことに起因している
 ようです。
 無言のエチュードに至っては、ゼスチャーゲームの様になってしまう、言葉を使えないた
 め、身振りで説明しようとしてしまうために起こる現象で、有機的に捉えていない典型と
 も言えると思われます。
 エチュードが旨く行かないと、役者は起こってくる事柄を真実として受け止めることが出
 来ずに、今起こっている事実を評価出来なくなってしまう。原因は間違った正当化をして
 いることと、「与えられた環境」をあせって雑に捉え、結果的に舞台上で迷子になってし
 まっている事が多いようです。
 その時役者の中で起こっていることは、対象をきちんと捉えていないか、課題を有機的
 につかんでいないか、本質がしっかりしていないか、緊張か、そのどれかで有ると言え
 ます。
 結果をいきなり行動し、相手役、ないしは自分が事件、問題点を提示出来ず、故に、そ
 れ以上発展させられなくなる。原因があり、原因に対する反応の結果として、行動が生
 まれる。どう振る舞ったらよいか迷子になると、往々にして、荒々しく力強い劇的な場面
 を演じようとする。
 舞台上の行為が、日常行為と何ら変わる物であってはならないはずです。
 
 無言エチュードが一段落して、いよいよ即興セリフの有るエチュードに入ると、多くの場
 合、それまでの体験を忘れ、始終しゃべり出す。会話が尽きると汗を流しながら頭をしぼ
 る。エチュードは本質から離れ、果てしない言葉遊びに陥る。セリフは、自然に目的遂行
 の為の行動の過程で、有機的に生まれてくる物の筈です。
 騒々しく、陽気で快活な人物になってしまうことが有ります。その時の役者の内面は、
 抑圧された状態で不必要な言語行動の影に隠れようとしている。言葉はコミュニケーショ
 ンの手段としては、大変重要であることは、今更説明を必要とはしません、しかし、それ
 とて一手段であって、完全な手段ではない。特に我々のように人間の内面を表現しようと
 する者は、言葉に頼ってはならない。

 あなたは、冒頭のエチュードでどれだけの環境、前提条件を設定しましたか?
 照明の色は、音楽は、温度は、湿度は、相手の服装は、あなたの服装は、相手の職業
 は、あなたの履歴は、イスとカウンターの高さは、飲み物は、床の素材は、メニューの構
 成 は、値段は........
 
 想像する創造。どれだけ多くのことを捉えましたか、多ければ多いほど虚構の舞台を、
 真実として受け止めることが出来るのです。

 次回は、エチュードの実際に付いての予定です。
  
 日常生活で、仕草、目の動きで意志を伝えていますか?
 それは恋人達の特権では有りませんよ。
 
006  エチュード
 の実際

 第2回

 今回は、エチュードの実際です。 初回はエチュードビギナーの為の 入り口部分です。
 すでにエチュードを進めていらっしゃる方も、再確認の意味で、ご覧下さい。
 一見どうと言うことの無い課題のようですが、雑にしないで下さい。誠実に。無駄と思
 われることも実際やってみると、難しかったり手ごたえを感じられないことが多いのです。

 [ 集中のエチュード ]

  1. 数人の演者を舞台上に座らせ、何も「演技」をしないで日常生活と同じように
    リラックスした状態を保つ。 普段のコンディションを壊さないように、とにかく
    やってみる。 この時、多くの場合、日常のコンディションと違っている事、それ
    自体に気づかないことが多い。
    この状態で、スタートの終わりの合図までの間、部屋の中の物音を聞いて、記
    憶する。後で、何の音がしたかを話、客席側はそれを補足する。 エチュードの
    最中に、意図的に音を出して、毎回違った雰囲気を作り出す。
 
  2. 2名一組で舞台に上がる。この時、1の
演者は自分の持ち物を一つ持って上がる。
    ペンケース、コンパクトなど等。 1の
演者は持ち物をよく観察し、相手に渡す。
    相手は1の
演者に見えないように持つ。1の演者は持ち物について具体的に、より
    詳細に描写して話してみる。後に、相手が補足を行う。発展型として、駅から稽古
    場までの道順を、町並みの説明を加えながら説明する。
    客席の生徒は、その町並みの映像を頭の中に映写しながら、道案内を聞く。

 これは、日常生活の中に、簡単な物事に気づかないこと、見逃していることがあると
 言うことを、再認識する作業であり、ここには、数多くの神経を使い、集中し観察する
 ことの大切さを確認する。
 特に「2」のエチュードにあっては、潜在意識が大きく働いていることを忘れないで頂
 きたい。
 これについては、先に行って詳しく触れたいと思います。

 「注意は行動と結びつき、絡み合って、対象の強い結びつきを作り出す」 
                                スタニスラフスキー           

007 ある日の
 稽古風景
稽古6稽古7

 どんなに台詞回しを上手く処理しても、内面の正 当化の作業を怠れば、真実から離れ、
 うそが入り込むのを許してしまう。 それは初期の段階では足の動きに端的に現れてしま
 う。 まるで棒のように動き、ドタドタと音をたてて歩いたり、感情のうねりとは切り離され
 一定の歩幅になり、スピードの変化も無くなってしまう。                      

 

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